「共謀罪」法案 低調な議論に元自民議員がダメ出し

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「共謀罪」法案 低調な議論に元自民議員がダメ出し

「加計学園」の追及で国会がざわつく陰で、与党は「共謀罪」法案の委員会採決を強行した。だが、かつて立法作業に携わった元自民党議員からも「審議不十分」との声が上がる。

 5月19日、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が衆院法務委員会で強行採決された。この後は、23日に衆院通過、24日から参院で審議入りする予定。当初よりずれ込んだものの、与党の思惑通り、今国会会期末の6月18日までに法案が成立する可能性が高い。参院での審議が遅れれば、国会の会期延長となることも考えられるが、小幅延長の見通し。だが、国会では審議が尽くされているとは言い難い状況が続く。

●対象犯罪をもっと絞れ

 共謀罪は、過去3回廃案になった。今回と同様に、野党や有識者から「内心の自由を奪う法律だ」という激しい批判にさらされたからだ。2回目の廃案後も、法案再提出に向けて、自民党は修正案の策定作業を進めた。2007年当時、自民党衆院議員だった早川忠孝氏(71、弁護士)は、党法務部会小委員会で事務局長として、修正案をまとめた。恣意(しい)的な捜査権の乱用で、一般市民が捜査対象とならないよう、対象犯罪を123〜155まで絞り込んだ修正案だった。現政府案は277。早川氏は、「議論が後戻りした」と語る。

 かつて共謀罪を議論した自民党の法務委員会の委員は、ほとんど党に残っていない。野党も共謀罪の議論に火をつけた保坂展人・世田谷区長などの論客もおらず、当選回数が少なく、法務の知識のない議員が大勢を占めている。今年4月の衆院法務委員会での参考人質疑の後は理解が深まった自民党の委員もいるが、まだ野党と法案の問題の所在について理解を共有している委員は少ない。

 対象犯罪の絞り込みも不十分。10年前と大きく違うのは、捜査当局への信頼低下です。鹿児島の志布志事件や厚生労働省の村木厚子さん冤罪(えんざい)事件など、警察、検察の信頼が失われる数多くの事件がありました。国民が捜査当局の恣意的な運用を懸念するのは当然です。277の犯罪は、本当に組織的犯罪集団が犯す蓋然性が高いものに絞られているのか。捜査権の乱用が起こる余地を残していないかをもっと議論をすべきです。その上で、捜査当局の暴走を抑止するシステムの構築、冤罪が発生しそうになったときの救済策などについても詰めるべきでしょう。審議を尽くさずに、期限内に数の力で法案を通そうとする国会は、立法府の機能を果たしていません。


●監視側の監視で議論を

 与党は衆院採決の目安となる審議時間を「約30時間」としている。国会には重要法案の審議時間は100時間超、一般的な法案は30時間程度といった目安がある。だが、日本の刑法の体系を根底から変える法案の審議が、はたして30時間で十分と言えるのか。しかも、金田勝年法務相の国会答弁が混乱を招いていることで、審議の中身が充実していたとは言い難い。5月17日には野党4党から不信任決議案が提出された(18日に否決)。早川氏は「金田法相には酷だ」と語る。

 共謀罪のような専門的な法案は、法曹資格を持った人間が時間をかけて勉強する必要がある。法相ともなれば、野党から指摘された問題の本質を理解した上で、適切な法案解釈をした答弁が求められます。ただ、刑事司法の現場に通じていない国会議員にそれを求めること自体に無理がある。金田法相だけを責めるのは違う。

 私は、日本も国際組織犯罪防止条約を締結して、国際社会と連携してテロ対策を講じるべきだと考えており、この法案も必要という立場です。だからこそ、国会会期を大幅延長するか、あるいは今国会での成立を見送り、次期国会に継続審議とするなどして、きちんと審議を尽くすべきだと思っています。

 日本維新の会が取り調べの可視化や弁護士の立ち会いを求める修正案を出しましたが、こうした「監視する側を監視する方法」についての議論も幅広くされるべきです。共謀罪は捜査当局にとって大きな武器になることは間違いない。議論が不十分なまま、法案を成立させてはなりません。

(編集部・作田裕史、澤田晃宏)

※AERA 2017年5月29日号

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