風向き無視、バス確保も不透明 鹿児島市原発避難計画の実態

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風向き無視、バス確保も不透明 鹿児島市原発避難計画の実態

鹿児島市の人口は約60万人、このうち九州電力川内原子力発電所(薩摩川内市)の30キロ圏内=緊急防護措置区域(UPZ)となる郡山地区には487世帯、879人(H27年4月1日現在。鹿児島市調べ)が暮らす。同市の原発避難計画で対象となっているのは、人口全体の0.1%の過ぎない郡山地区だけで、大多数の市民は見捨てられた状況だ。
 原子力防災の不備は明らかだが、市民の安全を無視した鹿児島市の原発避難計画は、対象地である郡山地区の住民さえ守ることのできないデタラメな内容となっている。
(右は鹿児島市の原発避難訓練。同市HPより)

“風向き”無視した避難計画
 下は、バスによる郡山地区住民の緊急避難について、「鹿児島市原子力災害対策避難計画」(平成25年11月策定)が定めた自治会ごとの集合場所、避難経路、避難所までの距離、避難所の一覧表だ。単位自治会ごとに近くの公共施設に集まり、市が用意した避難用のバスに乗って所定の避難所に向かう計画となっている。

1〜原発避難.png

 避難所までの距離は短いルートで16キロ、長いルートだと33キロとかなりの差があり、かなり乱暴な計画だ。郡山地区以外の鹿児島市民は自家用車で避難するしかなく、道路混雑は必至。その中で、この計画通りの通行が可能になるとは思えない。最大の問題は避難所の位置。いずれのバスも、郡山地区の南もしくは南東方向――つまり鹿児島市の中心部――に向かうことになっている(下の経路図参照)。

2〜原発避難.png

 鹿児島市が策定した郡山地区の避難計画は、川内原発の事故で放出された放射性物質が、すべて鹿児島市とは違う方向に向かうことを想定している。風向きによって避難所や避難ルートを変えるという発想が欠如しており、まさに机上の空論。形だけの計画なのである。

 下は、原子力規制委員会への情報公開請求によって入手した緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム=SPEEDIのデータ。平成24年10月と25年12月に実施された原子力防災訓練の時にとられたものである。

スピーディ.jpg スピーディ1.jpg
 SPEEDIのデータはリアルタイムで刻まれるため、上掲の2枚は特定時刻の拡散予測に過ぎない。それでも放射性物質が拡散する方向が、風向き次第であることが分かる。10月と12月では、まるで逆の方向に拡がっていくのだ。季節によって風向きは変わるし、数分で違う方向に吹くことさえある。放射性物質が鹿児島市内に向けて拡がることは、「ある」と考えるのが普通。その場合、市の避難計画では対応できない。

避難用バス、確保のめど立たず
 避難計画の核になっているのは「バス輸送」。希望する住民をバスで避難所まで運ぼうというものだが、肝心のバス乗務員を確保するめどさえ立っていない。下は、昨年12月20日に実施された鹿児島市の原発避難訓練に参加した市営バスの2台の乗務記録である。

1ー乗務記録ー1.jpg 1〜乗務記録2.jpg

 郡山地区で避難訓練に参加したのは「879人中40人」(市側の説明)。大多数の住民がそっぽを向いた形だが、乗務記録に記された走行距離によれば、わずか40人ほどの住民を運ぶために2台とも130キロ前後の距離を走破していた。乗務員がハンドルを握っていたのは、午前11時から午後6時半までの約7時間。住民はもちろん、バスの乗務員も危険に晒されるということだ。
 
 住民の緊急避難が決断されるのは、モニタリングポストで「毎時500マイクロシーベルト」の放射性物質が測定された時と定められている。一方、同じく国が定めた年間の被曝許容量は1ミリシーベルト=1,000マイクロシーベルト。バスの乗務員が2時間緊急輸送に従事したら、たちまち年間の許容量を超える放射線を浴びるということになる。鹿児島県が原子力災害を見越して県バス協会と結んだ「協定」と「原子力災害時等におけるバスによる緊急輸送等に関する運用細則」によれば、バス輸送の協力要請が行われるのは≪運転手等の計画被ばく量を算出し、平時の一般公衆の被ばく線量限度である1ミリシーベルトを下回る場合≫のみ。協定に参加していない市営バス(鹿児島市交通局)といえども、簡単にバスを出すことはできない。

 鹿児島市交通局が保有するバスは204台。車両はあっても、原発避難に対応可能な乗務員は現在のところ3人しかいないというのが実情だ。前掲の乗務記録を書いた2名ともう一人が、出動を命じることのできる「管理職乗務員」。公務員運転手は153人いるが、このうち59人は嘱託職員であるため原発避難では出動の命令が下せない。正規の公務員運転手が92人いる計算だが、管理職の3人を除く全員が「労働組合」に加盟しており、この人たちは原発避難についての説明さえ受けていないという。

 避難用のバスは15台必要だというが、乗務員をどう確保するのか――。鹿児島市に確認したところ、「これから、乗務員が加盟する全ての組合と協議する」のだという。組合側がどう判断するのか判然としないが、川内原発の再稼働から1年以上過ぎたというのに、この悠長さ。鹿児島の市長に、本気で市民を守る気があるとは思えない。




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